お盆前のある日、卒塾生の一人から連絡がきた。
お盆休みでこちらに帰ってくるので、会いたいというのだ。
そうだった。彼はこの時期、時々ひょっこり会いに来てくれる、ナルトシだ。
ナルトシはちっちゃな小学生の頃から塾に来ていて、中学生になってからは英語が少し苦手だったのだが、何とかがんばって志望高校に入ることができた。
そして、高校で得意な数学をさらに伸ばし、苦手な英語も克服して、念願だった東京学芸大学に見事、現役で合格したのだった。
今は非常勤の高校の教師として、東京で2か所の高校で化学を教えている。
かつて高校からは、「常勤にならないか」と声を掛けられたのだが、何と彼は自分でその話しを蹴った。
実は、彼には子どもの頃からの夢があった。
それは、「声優になること」。
大人になった今でも、その夢をあきらめずに追い続けている。
東京で定期的に、プロのボイストレーニングを受けているのだ。
彼がすばらしいのは、しっかりと自分の夢を持ちながら、教師としての勉強も欠かさないことだ。
そのことを話すと、
「いや〜結構ハードですよ」
と笑うのだが、その声には自信があって、とても頼もしく感じた。
彼の芸名は「沖田 成(なる)」。
勉強して、しっかり社会人をやりながら、同時に夢を追い続ける。
いつかその夢がかなうよう、応援せずにはいられない。
ちいちゃかったナルトシくんは、とてもかっこいい大人になっていたのだった。